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HOME > 在宅療養ガイド > 第4章 お別れの時期 > 4-2.大切なひとを失ったご家族へ

4-2.大切なひとを失ったご家族へ

4-2-1.お別れの後、ご家族に起こる心と体、生活の変化に向き合う

大切なひとを失った家族の悲しみは、たいていの場合なかなかすぐに拭いきれるものではありません。現実の感覚がなくなったように思えたり、悲しんだり、疲労感などで、体に不調を訴えられる方もいらっしゃいまイラストす。また、大切なひとが永遠にいなくなったことで、家族の生活も変化するでしょう。悲しんだり、疲労感を覚えたりしながらも、現実には日常生活の変化に対応していくことが必要になります。残された親しい人同士の語らいの場や、同じ思いを抱きながら過ごした方からのメッセージが参考になることもあります。

家族Sさん各方面への連絡や手続き、葬儀などで慌ただしかったせいか、主人がもういないという実感がなかなか湧きません。

相談員Nさんそうだったのですね。実は大切なひとを失ったときには、実感が湧かないとか、現実感がないように思われたりすることは、よくあることなのです。

家族Sさん今のような心のありようが、普通によくあることなのですか。心身ともに疲れているはずなのによく眠れず、体のだるさが続いています。

相談員Nさんどうかご無理なさいませんように。大切なひとを失ってからしばらくのあいだ、さまざまに気持ちが揺れ動くのは自然なことです。無感覚になったり、怒ったり、悲しんだり‥。でもその一方で、現実の生活を送るなかで、今までご本人がやってくれていた諸手続きを代わりにやることで新しいことに気がとられたり、日常の家事に集中したりと、ご本人のことを少しのあいだ忘れる時間もあるかもしれません。でも、そんな日常を送っていても、また悲しくなったり寂しくなったりと、気持ちはめまぐるしく変わることもよくあります。このような状態の繰り返しがしばらくのあいだ続くことはあります。

大切なひとの喪失体験により、さまざまな心理的・身体的症状を含む情動的(感情的)反応を「グリーフ」といいます。日本語では「悲嘆」と訳されていますが、実際の意味はもっと広く、身体や感情、認知、精神、行動面に影響を来すことで一身上にあらわれる、あらゆる「反応」を指します。

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ですので、不眠やだるさなど、体の不調も「グリーフ」の一つだと考えられます。ほかにも、身体的な症状としては、胸がしめつけられる感じや動悸、息切れ、めまい、食欲低下や吐き気、便秘や下痢、脱力感などを自覚されることがあります。また、精神的な症状として、集中力の低下、パニック、混乱、怒り、悲しい夢や悪夢などがあらわれやすいようです。気になる症状を認めたら医師に相談してみるとよいでしょう。最近、ご主人を亡くされたことによる「グリーフ」によるものなのか、治療が必要かどうかを含めて今後何らかの対応が必要なのか、確認することが重要です。これまで診療を受けていた医師や、がん患者さんやご家族の心の支援を専門にする医師(精神腫瘍科、精神神経科、心療内科など)や緩和ケア医、心理士などに相談することができます。

家族Sさんそうですか。いつまでもこのような状態が続くのでしょうか。


相談員Nさん大切な人を亡くして、気持ちだけではなく身体にも影響が出てきているのかもしれませんね。ほかに動悸や脱力感、また、集中力の低下などを感じることはありますか。

家族Sさん動悸や脱力感とまではいきませんが、なんとなくだるいですね。また、一人でいると、ぼーっとしてしまうこともあります。

相談員Nさんそんな状態が続いてつらいようであれば、医師に相談してみるのも一つですね。担当医に大切なひとを亡くされたこともよく話し、心身の状態が少しでも楽になるように助けを得てもいいと思います。もちろん、担当医だけではなく、ご家族や親しい友人なども助けになります。いままでの療養生活を振り返って、身近な人たちとご本人のことを話していると、気持ちも楽になるかもしれません。また、これからの生活で何か心配なことはありますか。

家族Sさんそうですか‥。もう一つ不安なことがあります。主人という大黒柱を失って、娘と2人になりました。長男は独立していますし、娘もいずれ結婚して家を出るでしょう。いくつまで生きられるかわかりませんが、経済的なことや私自身の健康など、今後の生活に少し不安を感じます。

相談員Nさんそういうお気持ちになってしまうのも、無理はないでしょう。これまで社会的、経済的、精神的にご主人に頼っておられていた部分が大きかったと思いますし、ご主人が亡くなられた後の生活に不安を抱くのは当然です。ご家族自身のこれからの生活について少しずつ考えていく必要があります。新しい生活をこれからご家族自身がどうつくっていくか、周りの人の力も得て心と身体の状態を整えながら、考えていきましょう。現実に、少しずつ慣れていくこと、小さなことでも少しずつ受け入れていくことが、これからの生活になじむ大切な第一歩になります。

◆◆◆

大切なひとを失った悲しみは、精神面、身体面、社会面などに広く影響を与えますが、それらはごく自然なことです。次にご紹介する「グリーフケア(悲嘆のケア)」は、新しい生活をつくっていく家族のためのケアです。ぜひ参考にしていただきたいと思います。

☆POINT
  • 悲しみの影響は、精神面、身体面、社会面などに広くあらわれる。
  • 悲しみの反応は、かたちを変えて繰り返されることがある。
  • これからの生活において不安なことについて、家族間で話し合う。

4-2-2.グリーフ(悲嘆)と向き合い、自分らしい生活リズムへ

「グリーフ(grief:悲嘆)」とは「大切なひとやものを失ったことによる反応」といわれています。大切なひとを失った人が新しい生活をつくりそれに慣れていくことを支える取り組みが「グリーフケア」です。自分らしい生活を取り戻したり、新しい日常に慣れ親しんでいったりするには、「グリーフケア」の考え方が参考になります。

家族Sさん最近は、急に悲しくなったり、怒りが込み上げてきたりで感情の起伏が激しく、自分でコントロールできません。周りには申し訳ないと思うのですが。

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相談員Nさん大切なひとを失った場合は、怒りや悲しみなどのさまざまな感情をいだくことがあります。このような感情は、ジェットコースターのように激しく変化し、自分でもどうすることもできないと感じることも少なくはありません。でもこれはごく自然なことです。ですが、そんな感情をもちながらも、同時にもう大切なひとがいないという現実のなかで、ご家族自身の新しい生活を始める必要があります。

家族Sさんそれはそうかもしれませんが、いつまでこんな気持ちの状態が続くのでしょうか。


相談員Nさんそれは、人によって程度はさまざまですが、こうした悲しみの気持ちは一般的に月や年の単位で続くといわれています。また悲しんだり、嘆いたりしながらも、実生活は進んでいきます。そんな時間の経過を経て、次第に悲しみの感情や生活そのものも変化していくといわれています。

家族Sさんイラスト主人がもうこの世にいないことを嘆いても、どうしようもないことは理解しています。今は、とてもつらい。こんな気持ちのまま、自分自身の生活に気を向けることはなかなかできないように思います。この気持ちのままに流されてよいのかどうか、わかりません。

相談員Nさんつらい気持ちは、無理して押しとどめることはありません。どうぞお話しください。一番悲しみが癒やされるのは、どういうときだと思いますか。

家族Sさん悲しみの源(みなもと)である主人の存在をきれいさっぱり忘れたときでしょうか。…もちろん、違いますよね。

相談員Nさんそうですね、ご主人の存在を無理やり忘れようとしても悲しみは癒されないと思います。むしろ、喪失や悲しみに遭遇するたびに、「忘れよう」「考えないようにしよう」といって、回避を重ねる道を選んでしまうと、逆に現実に向き合うことが難しくなってしまうこともあります。喪失による苦痛を乗り越え、充実した生活を取り戻したという方のお話を聞くと、「大切なひとが自分のなかで存在し続ける、と考えるように心がけた」ということをよくおっしゃいます。大切なひととの関係性を、目に見える「身体的な存在」から、目に見えない「心の絆」として自分のなかに刻み込まれているようです。だから、実際にひとりでもあまり寂しさを感じないそうです。

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そういう話を聞けば、思い出すとつらくなるからと、大切なひととの思い出をいつまでも封印し続けたりしなくてもよいことがわかります。また、グリーフ(悲嘆)に対処することによって、人間の命には限りがあるということに改めて気づき、その現実を受け入れたうえで、最も大切な人々との関わりや、大切な計画を優先し、残された時間を有意義に活用しようと考えることもあるでしょう。こうして、喪失や悲しみの気持ちから、新たな生活、人生に歩み出していけるようになるのではないでしょうか。

家族Sさんグリーフワークという言葉を聞いたことがありますが、今おっしゃったようなことがグリーフワークでしょうか。亡くなった主人との関係を見つめ直したり、新しく築いたりすることが…。

相談員Nさんはい。お別れから間もない今はまだ難しいかもしれませんね。でも、いつかご本人との思い出をあたたかく感じ、ご本人を身近に感じることのできる日が来ると思います。そして、周囲の人たちの助けも得ながら、ご家族の日常生活にも落ち着きと楽しみを感じられるようになるときがやがてやってくると思います。ご本人は亡くなられてしまっても、ご家族の大切なひとであることには永遠に変わりありませんから。

家族Sさんそうですね。でも自分一人ではどうしていいかわからないと思ったときに、頼れるところはあるのでしょうか。

相談員Nさん最近は、グリーフケアに積極的に取り組む医療機関や支援団体が増えています。お住まいの地域のがん診療連携拠点病院にあるがん相談支援センターに問い合わせてみるのもいいでしょう。あるいは、誰かと一緒にいるよりもひとりでじっくり向き合ったほうが自分には合っていると思えば、それでもよいのです。グリーフケアにもいろいろなかたちがあります。

家族Sさんグリーフに向き合うことの大切さは、なんとなくですが、わかったような気がします。具体的に何をすればよいのでしょうか。

相談員Nさんまずは、ご自分の気持ちと静かに向き合ってみませんか。それが難しければ、ご自分の心のうちを親しい人に話してみてください。喪失による痛みや苦しみと対峙することによって、今まで気づかなかったご自身の感情や願いがみえてくることがよくあります。また、ご自身の感情の変化に気づいたり、見つめ直したりするきっかけにもなり、これからの問題や悩みに対しても方向性を見失わないで、落ち着いて対処することができるでしょう。

家族Sさん心の痛みや苦しみから逃げず、常に向き合い続けることで、いずれ悲しみが癒やされ、立ち直れるということですか。

相談員Nさん「常に」というのは、ちょっと難しいかもしれません。いくら痛みや苦しみに向き合うといっても、いつも振り返ったり思い出したりし続けることはつらいですし、普段の生活のなかでのバランスを考えても現実的とはいえないかもしれません。いつもではなく、ときどきグリーフに向き合うのがよいといわれています。例えば、悲しみや不安といった感情に目を向けるときもあれば、それ以外の時間には家事や仕事といった日常の作業に集中 するときもあります。家事や仕事などの作業も、グリーフと向き合うあいだには、心の痛みや苦悩から一時的な癒やしを与えてくれるひとときになるかもしれません。また家事や仕事は、自分の内面ではなく、“外に向かう”営みですから、自分の外面に向かうときの適応の度合いを知ることもできます。大切なのは、「感じる」という内省的な作業と、「行動する」という外に向かう作業のバランスです。

家族Sさんこのような試みを続けていくことにより、亡くなった主人との新たな関係性、新しい世界をつくり上げていくということですね。

相談員Nさんグリーフワークは、遺された人がそれぞれに新しい世界を求めて踏み出す旅のようなものです。二度とスタート地点に戻ることはありません。そして、新しい世界の探索は、その人自身がこの世を去るまで続くといえます。なぜなら、人生は出会いと別れの連続であり、別れのたびに大切な何かを失った世界と折り合って生きていかなければならないからです。グリーフワークという旅の途中にはさまざまな選択の場面がありますが、選ぶのはあなた自身です。その時々で新しい価値観や知恵、生きがいを見つけ出すことができれば、喪失体験が失うことばかりではないと感じることができるかもしれません。

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家族Sさんグリーフワークがうまくいかない場合、例えば、つらい気持ちが続いたり、心の痛みが治まらなかったり、何の感情ももてなかったりしたとき、どうすればよいのでしょうか。

相談員Nさん確かに、悲しみや苦しみとの向き合い方がわからず、先に進めず堂々めぐりをしているとお感じになられる方もいます。心痛や苦悩が高じて「消えてしまいたい」「なにもかも嫌になった」という否定的な気持ちをもってしまうこともあるかもしれません。こんなときには、無理は禁物です。早目に身近な人や医療関係者に相談してください。

また、グリーフワークを、一人だけで行うことはありません。同じつらさや寂しさを共有し合いながら、支え合うことができる人が近くにいるかもしれません。あなたの周りにいる人たちへ積極的に目を向け、お互いの気持ちを伝えたり、受け取ったりすることで癒やされることもあるでしょう。もし嫌でなければ、ご家族や友人・知人と思い出話をするお茶会や食事会を、定期的に催すのもよいと思います。

◆◆◆

グリーフケアについては、専門的に行っているところはまだ少ないのですが、その重要性は認識されており、今後普及していくと考えられます。医療機関や遺族会などでも熱心にグリーフケアに取り組んでいるところがありますので、調べてみるとよいでしょう。

☆POINT
  • 死別体験後の気持ちの面だけではなく、大切なひとやものを失った体験をした人が新しい生活をつくり、それに慣れていく道のりを支えていくケアがある(グリーフケア)。
  • グリーフワークは、これまでを振り返り、人それぞれの歩みをこれから進めるきっかけになる。
  • 悲しみと向き合うつらさは、大切なひとを失った人が誰もが経験することであり、無理は禁物。
  • グリーフケアに専門的に取り組む医療機関や支援団体を活用することができる。
ご家族の体験談

妻が教えてくれたこと

50歳代 男性

私が妻を亡くしたとき、2人の娘はまだ小学校と幼稚園に通っていました。妻がいなくなり、私は途方に暮れることもありましたが、仕事や家事に、子育てにと、とても忙しい時間を過ごすことになりました。ああ、この料理はどうすればいいのだろう、娘たちとはどうコミュニケーションをとればいいのだろうなどと、迷うことは多々ありましたが、妻が教えてくれたことを思い出しては、何とか今までやってくることができました。今年、末の娘も成人を迎えます。以前妻がよくつくり、今では私の得意料理となった栗ごはんで末娘の20歳の誕生日を祝いたいと思います。

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掲載日:2015年12月21日
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