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HOME > 在宅療養ガイド > 第4章 お別れの時期 > 4-1.看取りのときを迎える

―第4章―
お別れの時期

この章では、在宅で最期の時期を看取るエピソードや患者さんが亡くなったあとの生活について、取り上げています。今をしっかり生きることを精いっぱい考えていらっしゃるご家族や患者さんにとって、目にするのはつらい内容かもしれません。「今は読みたくない、考えたくない」というところは読みとばしていただいて構いません。今後の見通しや必要な準備・心構えについてあらかじめ知っておくことは、限られた時間を大切な人と共有するためにとても重要であるともいえます。少しずつ、関心のあるところからお読みいただくことでもよいでしょう。今後、医療や在宅介護スタッフと話し合うときに参考にしていただけると思います。

この章では、在宅での看取りを迎えるにあたって、体と心に起こる変化、最期のひとときを迎えるご本人に寄り添いながら、ケアや介助をしていくことについてまとめています。心のつながりを大切にしながら、ご本人とご家族双方の意向に沿った穏やかな時間をともに過ごすことができるようにしていけるとよいでしょう。
お別れの後に家族ができるケア、そして、家族や支援する方に向けた「グリーフケア」の考え方について、紹介しています。

この章のまとめ
  • 本人の反応がなくなってきても、心の交流をもつことができます。最期の時期の過ごし方について方針を共有しておくとよイラストいでしょう。
  • グリーフ(悲嘆)に向き合いながら、これからの生活を支えるためのグリーフケアの考え方が広がってきています。これからの不安や生活上の心配事について、家族間で話し合ったり、相談できる機会をもつとよいでしょう。

4-1.看取りのときを迎える

4-1-1.人生の最期を迎えるときに、温かく寄り添うには

やがて訪れると理解はしていても、いよいよそのときが迫ってくると、家族の方々は平常心ではいられなくなるかもしれません。本人にどう接したらよいか、わからなくなる家族もいらっしゃいます。とはいえ、本人と一緒に、ここまで大きな山を何度も乗り越えてこられたのです。今までやってくることができた自分を信じ、本人の旅立ちに臨みましょう。

専業主婦のSさん(55歳)は、在宅支援スタッフ、家族や知人の協力を得ながら、ご主人をご自宅で見守り続けてきました。旅立ちの日は近づいています。しかし、ご主人を看取ることですべてが終わるわけではありません。Sさんと相談員Nさんとの会話から、旅立つ際の準備や、残されたご家族へのケアなどについて紹介します。

家族Sさん主人は1週間ほど前から、ベッドから起き上がれなくなり、ずっと横になったままの状態です。昨日は話しかけてもほとんど反応がありませんでした。呼吸も不規則になってきているようです。私の目から見ても最期が近づいていることがわかります。私たち家族にできることは、もう何も残されていないような気持ちになります。

相談員Nさんこれまでつらい時期もありましたが、よくご本人を支えていらっしゃいましたね。とても喜んでいらっしゃると思いますよ。これからできることは、確かに限られているかもしれません。でもまだ大切なことが残っていますよ。それは、最期まで「あなたの傍(そば)にいます」ということをご本人に伝え続けることです。会話のやりとりを楽しむことはもうできないかもしれません。しかし、言葉のキャッチボールだけがコミュニケーションではありません。むしろこの時期は、静かに寄り添ったり、やさしく体に触れたりすることで、ご本人にご家族の気持ちが伝わるということもあります。会話が少なくなっても、心と心が通い合い、お互いがよりわかり合えるようになれるかもしれません。

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家族Sさんそういう魂の触れ合いのようなときがもてたら、本当にうれしいです。


相談員Nさん最期の日々を、ご本人とご家族のお互いの思いに寄り添いながら過ごすことができるのが、在宅での療養のよいところだと思います。会話が難しくなっても、ご本人にご家族の声は届いていますから、語りかけることを続けていくといいと思います。ささやくようにやさしく、ゆっくりと。ご家族の声にご本人も安心されるでしょう。

家族Sさんどのようなことを話しかけたら喜ぶでしょうか。


相談員Nさんご家族がご本人に伝えたいこと、話したいことでいいと思いますよ。楽しかった思い出や感謝の気持ち、今日の出来事など何でも。もしも過去にわだかまりがあるとしたら、いまが最後の仲直りのときと思って、それを話題にしてもいいと思います。とはいえ、ちょっとした笑い話程度にしてご本人の表情を楽しむくらいの余裕をもちたいものです。それから、ご家族の未来の話を控える必要はありませんよ。ご家族の幸せな将来のイメージは、ご本人の希望にもつながります。

家族Sさん希望ですか…。最期のときを迎えようしている主人でも、希望をもつことができるのでしょうか。

相談員Nさんええ。確かに、病気が治る、元気になれる、というような希望ではないかもしれません。しかし、先ほど申し上げたように、ご家族の幸せやお子さんやお孫さんの成長を見守りたい気持ちや、自分がご家族の心の中で生き続けていたいという気持ちなど、夫として父として人間としての希イラスト望は、最期までもち続けることができると思います。最期まで痛みなく過ごしたい、ご家族に見守られて逝きたいといった、在宅での療養を選んだご本人の希望がかなえられるように、みんなで応援していきましょうね。


◆◆◆

あまり騒がしい環境は好ましくありませんが、誰かが傍にいるという気配は、死への恐怖や孤独感をやわらげる効果があるそうです。本人を中心に家族がベッドの傍らに集まり、最期の日々を過ごしていただければと思います。また、本人の反応がなくなってきたからといって、何もわからなくなっているわけではありません。お見舞いにきた親戚や知人に対しては、そのことに配慮していただくようにお伝えするとよいでしょう。

☆POINT
  • 本人の表面的な反応がなくなってきても、心の交流をもつことはできる。
  • 傍らにいて体に触れ、静かに話しかけることが大切。
  • 死は避けられなくても、希望を見い出し、またその希望をかなえることができる。
お別れのときの兆候の例
死が近いときには、以下のようなさまざまな「兆(きざ)し」が現れることがあります。ひとつひとつの変化に驚いたりする必要はありませんが、つらい様子はないかどうか確かめながら寄り添っていられるとよいでしょう。
  • ものを食べられなくなる。
  • 水をほしがる。
  • 葬儀など、自分の死後の事柄を気にし始める。
  • 横になる時間が長くなる。
  • すでに故人となっている家族や知人について語る(お迎え体験)。
  • 会話がちぐはぐになる。
  • トイレに立てなくなる。
  • この世ならぬものを見ているようなまなざしになる。
  • 周囲の人にお別れのことばを口にする。
  • 一時的に食欲が戻ったり、意識がはっきりする(中治り)。
  • 眠る時間が長くなる、無呼吸が現れる。
  • 手足が冷たくなる。

4-1-2.最後のときの備え(葬儀について)

大切な家族が亡くなった後のことを考えるのはつらいことですが、やがて訪れる最期のときへの備えや葬儀について、事前に準備しておくことで、そのときを慌てずに迎えられます。葬儀の方法や遺影などについて、前もって本人の希望を確認しておく方もなかにはいます。本人、家族の意向に添い、願いがかなうような旅立ちとなるように、少しずつ準備できるとよいでしょう。

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家族Sさん葬儀の内容や希望について、主人に尋ねてもよいものなのでしょうか? 亡くなった後のことなどを口にしてもよいものなのか、はばかられてしまいます。

相談員Nさんご本人は、ご家族が思う以上に、「最期のときが決して遠くない」状況を感じ取っていることが多いようです。これまで一緒に歩んでこられたご家族であれば、亡くなった後のことについて触れることも、決してタブーではありません。

今は、葬儀の形態もさまざまです。むしろ、前もってご本人に確認することで、ご本人、ご家族双方の意向に沿ったお別れの準備ができます。

家族Sさんそうなのですね。それでは、少しずつ、葬儀のことも尋ねてみたいと思います。でも、具体的にはどんなことを話していけばいいのでしょうか。

相談員Nさん例えば、葬儀の種類に関しては、宗教がある場合には、その希望を確認します。そして、葬儀の方法としては、近親者やごく親しい方だけにするか、仕事関係の方にはどなたに連絡するか。参列してほしい人をリストアップしてもらうのもよいでしょう。また、遺影の写真や、喪主、弔辞をお願いする方、旅立ちのときの装いなども、ご家族とご相談しながら、事前に決めておきたいという方もいらっしゃいます。

家族Sさん主人と話す内容はわかりました。葬儀会社などの準備も必要ですか。どこへ連絡をしたらよいのか、費用がどれくらいかかるのか、見当もつきません。

相談員Nさんそうですね、葬儀会社についても、事前に情報収集をしておくとスムーズです。もし、ご縁のある宗教者(お寺や教会など)や、地域の有識者がいる場合には、事前にご相談をなさってみてください。まったく見当がつかない場合には、地域にある葬儀社紹介センターを介して、葬儀社を紹介してもらうこともできます。こうしたことも、在宅支援チームは情報を持ち合わせています。訪問看護師やケアマネジャーに相談をしてみましょう。

☆POINT
  • 本人と葬儀について話すことは決してタブーではない。本人の意向に沿った旅立ちにするためにも、話ができるようであれば要望を聞いてみる。
  • 葬儀会社に関する情報については、在宅支援スタッフが詳しい場合もある。

4-1-3.最期が近づいたときの変化と対応を知っておく

最期のときが近づくと、体からサインがあらわれます。それは主に意識の低下(刺激や痛みなどへの反応がなくなる)や呼吸の変化です。こうしたサインを初めて目にすると驚かれて、気が動転するかもしれません。それが自然な変化であることをあらかじめ知っておくと、落ち着いて向き合うことができるようになることでしょう。

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家族Sさん私も子どもたちも、人が亡くなることに立ち会った経験がありません。そのときひどく痛がったり、苦しんだりしないでしょうか。

相談員Nさん意外に思われるかもしれませんが、痛みやつらさをしっかりとることで、実はがんの患者さんの最期は、多くの場合とても穏やかで、“息をひきとる”あるいは“眠る”ように、静かにお亡くなりになります。すでに在宅の担当医からお聞きしているかもしれませんが、自然な死への過程として、無呼吸の時間が増えたり、呼吸が途切れ途切れになったり、肩や顎(あご)を動かして、あえぐような動きになったりすることがあります。このとき苦しそうに見えるかもしれませんが、脳が徐々に低酸素状態となるためご本人は苦しく感じていません。むしろ、全ての苦痛から解放されていますので、声をかけたり手を握ったり足をやさしくさすったりしながら傍らで見守りましょう。反応することが難しくなっているだけで、ご家族の方の声や手のぬくもりはご本人に伝わっています。呼吸回数が減ると心拍数も減少してやがて息をひきとります。

下顎(かがく)呼吸(口をパクパクさせるように動かす呼吸)があらわれてから亡くなるまでは1~2時間のことが多いのですが、数日ということもあり、亡くなり方はお一人おひとりで異なります。文字どおり、「眠るように息をひきとる」というように、普段の生活でちょっとうたた寝をしていると思ったら、息をひきとっていらっしゃった、ということもありますが、いつもの環境のなかで、きっと安らかに最後の時間を過ごすことができたということだと思います。喉の奥の方でゴロゴロと音がすることもあります(喘鳴:ぜんめい)。痰がからんで苦しそうに感じますが、これもご本人は苦しく感じていません。吸引機を用いてもうまく取れないことが通常ですので、顔を横に向けるなどして見守りましょう。

家族Sさんイラスト在宅医や訪問看護師さんには、どのタイミングで連絡すればよいのでしょう?

相談員Nさん目安としては、呼吸が浅くなってきたとき連絡することが多いのですが、実際に医師を呼ぶのは呼吸が途切れ途切れになったとき、下顎呼吸と呼ばれる口をパクパクと動かすような呼吸があらわれたとき、あるいは息をひきとったときに連絡するなどの場合があります。継続して在宅医や訪問看護師の診察を受けていれば、夜中に旅立たれた場合でも、ご家族でゆっくりお別れをし、朝になってから連絡するということもあります。在宅支援チームの看取りの方針を確認し、ご家族の希望もお伝えして、連絡するタイミングをある程度決めておくとよいと思います。あらかじめ決めたとしても、不安になったら、いつでも在宅医や訪問看護師に相談しましょう。

家族Sさん緊急事態のときや不安なときには、救急車を呼んだほうがよいのでしょうか。


相談員Nさん緊急事態と感じて、動転して救急車を呼ぼうとしてしまうかもしれませんね。でも、ここで落ち着いて考えることが大切です。自然で穏やかな在宅での看取りを決意したときの皆さんのお気持ちと、ご本人の希望を思い起こして、在宅支援チームにも連絡して、落ち着いて対応しましょう。そうすることにより、在宅での自然な看取りをすることができるのですから。救急車を呼ぶと、通常、救急隊は心臓マッサージなどの蘇生処置をしたり、警察に連絡したりすることもあり、ご本人の希望とかけはなれた状況になってしまいます。

こうした点からも、変化があったときの連絡のタイミングや段取りは事前に在宅医や訪問看護師に確認しておくことが大切です。ご本人は心穏やかに、ご家族や親しい友人や知人に囲まれながら、最後の時間を過ごすことを希望されるかもしれません。ご臨終の瞬間に立ち会うことができないこともあるかもしれませんが、お別れのときを一緒に過ごすことが、ご本人とご家族の心の平穏につながると考えれば、必ずしも臨終の時間に間に合うということにこだわらないという考え方もあります。最後のときを過ごした時間をともにすることで、心穏やかなひとときを送ることができることと思います。

家族Sさん亡くなったときに私たちができることは何ですか。


相談員Nさんそうですね。これまでの人生、闘病、仕事、ご家族へ向けてくれた愛情などに感謝のお気持ち、労(ねぎら)いの言葉をかけて差し上げましょう。そして、もしベッドの背もたれが上がっていれば下ろし、ご本人を仰向けにして枕もとを整えます。目が開いていれば閉じ、はずしてあった義歯があれば口に入れます。下顎が下がって口が開いているときは、小型のタオルを丸めてあごの下に入れるか、枕を少し高くして口を閉じるようにしましょう。衣服や寝具を整え、周辺を片付けるなどして、落ち着いてお別れができるような環境を整えましょう。看護師などが立ち会っていれば手を貸してくれると思いますが、これらはご家族が行える最後のご本人へのケアですので、ご家族が声を掛けたり、さすったりしながら可能な範囲で行っていただけるとよいと思います。

家族Sさん亡くなったあとは、どうしたらよいのでしょうか。


相談員Nさん最初に必要なことは、医師にご本人の死亡を確認してもらい、死亡診断書を書いてもらうことです。ご家族だけで看取られた場合でも、在宅医、訪問看護師に連絡し、亡くなられた時刻をお伝えしましょう。継続して在宅医の診察を受けていて、病気の経過による死であることが明らかであれば、警察が入ることはありません。

その後、看護師などと一緒に、ご本人の身体をきれいにし、着替えをします。ご家族の手で行うとご本人が喜ぶかもしれませんね。タオルと温かいお湯を準備し全身を拭き、希望があれば洗髪し、ひげそり、顔そりなどをします。旅支度として、ご本人が好きだった服装やご家族が望む服装に着替えます。着物や白装束にこだわる必要もありません。口や耳などに脱脂綿を入れることもほとんどありません。床ずれ(褥瘡:じょくそう)や傷、ストーマ(人工肛門)などがある場合には、看護師に手当の方法を相談しましょう。整髪し、お化粧をして、ご希望があれば胸の上で手を組みます。これらのケアを葬儀会社が行うこともあります。

家族Sさん葬儀会社には、いつ連絡をしたらよいのですか。


相談員Nさん医師に死亡診断書を書いてもらった後に連絡するのが一般的です。葬儀会社の方は、死亡診断書があるかどうかをご家族に尋ねます。死亡診断書が手元にまだない状況でも、葬儀の段取りなどの打ち合わせだけでも行う場合があります。医師や葬儀会社に確認しましょう。葬儀会社の方は、死亡診断書を確認した後に、ご本人のお体を移動したり、お着替えをしたりできるようになります。葬儀については、お元気なうちにご本人の意向を尋ねたりなどし、ある程度備えておくと慌てずにすみます。葬儀は、ご本人が旅立たれた後、残されたご家族が歩み出していくために必要な儀式ともいえます。予算と相談をしながら、無理のない範囲で準備を進めましょう。

予期しないことが起こる可能性もあることを知っておく

がんの患者さんの多くは、たいていの場合、穏やかな最期のときを迎えます。しかし、体が衰弱した時期には急に具合が悪くなったりするなど、予期しないことも起こりえますので、こうした可能性も念頭に置いておくことも必要となります。例えば、急な出血や息苦しさ、けいれんや意識の低下などです。在宅医や訪問看護師に連絡して、いつから、どのような症状があるのか、意識はどうかなどを伝えたうえで、今後どのようにすればよいか、説明を受けましょう。病状について予測できる範囲のできごとであれば、今後何らかの処置や対応が必要であるか、病院を含め医療機関に受診したほうがよいかなど、確認しておくとよいでしょう。ご本人が安心できるよう誰かが傍らにいて、楽な姿勢をとらせたりしてあげながら在宅医や訪問看護師などのスタッフを待って、診察を受けることもあります。

あらかじめ状態の変化について耳にしていても、急激な身体的な変化を目の当たりにして動転してしまい、落ち着いた環境で看取りの時間を過ごせないということはよくあります。本人と家族が心穏やかに過ごすことができることが、この時期には一番大切なことです。在宅医や訪問看護師から、臨終に際してどのような変化が起こるのかについて聞いておいたり、立ち会うほかの家族や親族とも共有しておくと、落ち着いて穏やかな時間を過ごすことができることでしょう。

☆POINT
  • 死の前後に起こる身体的な変化について、事前に十分な説明を受け、対応方法を理解しておくことが大切。
  • 在宅医や訪問看護師に連絡するタイミングなどを事前に確認しておく。
  • イラスト家族や親族内で、最期の時期の過ごし方について方針を共有しておく。
  • 亡くなったあとにも家族ができるケアがある。

ご家族の体験談

「みんなが集まる日に旅立つわ」

50歳代 女性

母は80歳、進行した腎臓がんでした。実の娘の私に「介護で面倒をかけて申し訳ない」と、着替えを手伝う、トイレに付き添う、食事を出すたびに謝っていました。私としては、「面倒をかけてくれていいのよ、もっとわがまま言っていいのよ」、とやさしく伝えるのですが、母は変わりませんでした。「介護で迷惑をかけるなら、早く死んだほうがまし」、とまで追い詰められているようでした。訪問看護師さんは、そんな母の心の痛みを訪問のたびにじっくり聴いてくれていました。でも特にアドバイスをしているわけではなかったようです。

ですが、ある日突然、看護師さんと話している最中に、視線を窓に向け、希望に満ち溢れた顔になりこう言いました。「おばあちゃんは、この心の痛みを天国まで持っていくわ。そう、そう決めたの。そして、家族みんなが集まる日に旅立つわ。準備をお願いね」と。それからも、申し訳ない、と介護のたびに謝ってはいましたが、イラスト心は明るく晴れ晴れしているようでした。そして、本当に、宣告どおり家族が集まった日に、皆に見守られるなか、安らかに旅立ちました。

在宅療養のご褒美は孫娘が施したエンゼルメイク

60歳代 女性

85歳の母は、肺がんで亡くなりました。私と孫3人で手をつなぎあい見守るなか、静かに息をひきとりました。息がとまった時間を先生に連絡すると、間もなく到着し死亡確認をしてくださって、看護師さんと一緒に洗髪し、身体を拭き、大好きだった訪問着に着替えました。そして、看護師さんのお薦めで20歳代の孫娘が死化粧を行うことになりました。

眉毛を整え、ファンデーションを綺麗に塗り、アイライン、チーク、口紅とすすめていくと、母が生き生きと蘇ったようになりました。肺がんとわかってから、血色も悪くつらそうだったけど、最期のお別れの顔を見るたびに全ての苦痛が吹き飛んでいったように感じました。父の時は、病院で亡くなり、家族は病室の外でケアが終わるのを待っていました。在宅で、亡くなった後のケアを家族が一緒にすることで、こんな素敵なプレゼントが待っていました。

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掲載日:2015年12月21日
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