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北見地域のがん患者さん支援の充実に向けたセミナー 2023
【実践報告】
訪問看護ステーションにおけるがん看護の課題と対策

澁谷 順子さん(訪問看護ステーションタッチケア 管理者)

訪問看護ステーションタッチケアの澁谷と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

訪問看護の需要は増加傾向で対応できないことも

訪問看護の需要は増加傾向で、病院のソーシャルワーカーや居宅介護支援事業所の介護支援専門員の方から、「なかなか依頼を受けてくれる訪問看護ステーションが見つからない」というような声を聞くことが多くなりました。
利用者についても、介護保険を利用し定期的に訪問する方ばかりではなく、医療保険が対象で訪問間隔も不定期になりがちな方、特に50代~60代の利用者が増えたように感じます。これは、医療保険での利用者は圧倒的にがんの終末期の方が多いためと考えます。
がん患者さんで訪問看護を利用する方たちの主な特徴です。「ADL(Activities of Daily Living:日常生活動作)が急激に低下する」「金銭的な負担が大きい」「関係事業所との密な連携の必要性が高い」というふうなことがあります。

ADLが急激に低下するため介護保険の手続きが間に合わない

講演の画面01

まず「ADLについて」です。がんの終末期を自宅で過ごされている方は、お亡くなりになる1週間から数日前にADLが急激に低下する方が多いです。早期の訪問看護は体調確認や療養相談での訪問が多いため、介護保険を申請しても「自立」または「介護予防(要支援)」の判定になることが多く、認定が下りるまで日数がかかるため、タイムリーに介護保険を利用できず、介護用のベッドを利用したくても自費になってしまうことがあります。
また、ADLが低下してきた時に急きょ、介護用ベッドだけではなく歩行器、車いす等の福祉用具が必要になるため、介護支援専門員や福祉用具貸与事業所に「今日、明日中に」と無理なお願いをすることになってしまう場合があります。数日遅れると、レンタルしても使用しないで終わってしまうことがあります。
ご家族も介護経験のない方が多いので、急に動けなくなってしまうことに対して精神的に戸惑いや動揺が大きくなりがちです。

金銭的な負担が大きい

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2点目は「金銭的な負担」です。医療保険は年齢や所得に応じて1~3割負担となり、現役世代は3割負担で上限額が高く設定されています。そのため、こちらが必要だと思っても、ご本人は利用料のことを考え利用を控えることがあります。私たちのほうから「いつでも連絡してください」と説明しても、「結局受診になるなら」と真っすぐ外来に行く方もいらっしゃいます。経済的な問題は個々それぞれに違うデリケートな問題のため、対応が大変難しいです。

関係事業所との密な連携の必要性が高い

講演の画面03

3点目の「関係事業所との連携について」です。がんの終末期の病状、症状の変化は多様です。痛みやADLの変化に応じて予測し対応するように努力していますが、実際には予想より状態の変化が早いなど、予想外のことが起きる場合もあります。そのため、状況に応じて病院の外来へ連絡し、主治医へ指示の確認を依頼することも多くなります。
がん患者さんの生活の中で一番身近な医療職として私たちが連絡を取る、あるいは連携を図るのは、病院では主治医、外来看護師、メディカルソーシャルワーカーなどであり、ほかに介護支援専門員、福祉用具貸与事業所をはじめ、介護保険未申請の場合は包括支援センターへ申請代行の依頼を行うなど、ほかにもかかわっているサービス事業所の数は多くなります。それにより、どうしても関係事業所との密な連携の必要性が高くなります。

簡単に事例を紹介いたします。高齢の妻が1人でがん終末期の夫を介護されていましたが、急にトイレ歩行が困難な状況になりました。訪問中に介護支援専門員に連絡し、すぐに車いすの手配を依頼し、その日のうちに準備していただきました。
その後、2回車いすでトイレに行くことができましたが、翌日永眠されました。後日訪問した際に、奥さまはぎりぎりまで本人の「トイレへ行きたい」という希望がかなえられたことを大変喜び、「最期まで家で看取ることができてよかった」と話されていました。

患者さんが望む最期を迎えられるよう多職種連携でサポートする

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私たち訪問看護師は、以上のようなことを踏まえ、多職種で連携し協力できるように情報提供を行い、問題点を洗い出し、がん患者さんが限りある時間を少しでも安全・安楽に過ごせ、望む最期を迎えられるようにサポートすることが必要であると思います。
医療だけでがん患者さんのサポートはできませんので、多職種で連携を図り協働することで患者さんやご家族の思いをかなえられるよう、今後も役割を果たしていきたいと考えています。ご清聴ありがとうございました。

関:澁谷さん、ありがとうございました。続きまして、「ゴールデンウィーク中の麻薬持続注射患者への取り組み」、ミント調剤薬局薬剤師の矢作徹さんからご報告をお願いいたします。

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掲載日:2023年11月13日
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