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がん医療フォーラム 香川 2018 がんになっても幸せに暮らそう~ちゃんと決めまい自分のこと~
【第2部 フォーラム】がんになっても幸せに暮らすための準備

いつもの風景のなかで終えていくために~納得した意志決定をするとき~
長内 秀美さん(香川県看護協会高松訪問看護ステーション所長)

長内 秀美さん写真
長内 秀美さん

香川の在宅療養の現状

お家での最期の看取りというのは、苦しいとか、つらいということばかりではなく、ご家族にとって「再生」の場面として大切な時間だと考えています。平成27(2015)年に香川県で行われた「自分が最期を迎える場所についての住民の意識」を調査した結果ですが、多くの方が「自宅で最期を迎えたい」と思っているのに、実際には自宅以外で最期を迎えています。その背景には、家族への思いやりや配慮から家族の負担になりたくないと考えたり、家族がいないことによって自宅に戻れないことが理由になっていました。香川県における死亡場所の推移についてみると、かつては自宅で亡くなる方がほとんどでしたが、最近では8割の方が病院で亡くなっています。在宅での看取りは、全国平均に比べて少ないですが、近年少しずつ増えてきているようです。
訪問看護については、2017年に24の事業所が開所され、施設数が増えてきています。そんな状況のなか、私たち訪問看護師は日々車で移動しながら、ご自宅に訪問し、ケアをしています。

今を、これからをどう生きるか

雲のように時は流れ、雲は一瞬でかたちを変えていきます。
私は主人を36歳の若さでがんで失いました。病院の窓からじっと雲を見つめながら、「この雲と二度と会うことはない、二度とこの時間は帰ってこない」と思うことがありました。病状が変わっていくとき、大切な相談をすることを躊躇していました。二人で話し合うことができませんでした。亡くなる1-2か月前に「何か言いたいことがあるんじゃないか」という言葉を主人からもらいました。そのたった一度のチャンスさえ「何もないよ」と言って逃してしまったのです。あのときに今後のこと、これからどうしていたいか、ということを聞いてあげられなかったことは、いまでも後悔しています。闘病中に交わした交換日記だけが私たち家族のこれからの人生、今後を支える唯一のものになってしまいました。「今このときをどうして生きていたいか」を考えるとても大切な時間は、それぞれの人のタイミングによって異なります。私は、主人が亡くなったあと、大きな喪失感を味わいました。しかし、周りのいろいろな人から暖かい言葉に支えられながら、今日こうして、皆さんの前でお話をさせていただいています。

死を考えながら生きる姿勢の大切さ

よく「縁起でもないことはいわないで」といわれます。しかし、どんな生き物にも死は訪れます。「生きてきたように、人は死んでいく」と言われますが、この言葉は今の生きざまに対する戒めの言葉だと思います。自分の選択によって人生が変わる、自分が「流される」のではなく、こちらに「引き留める」ということが重要だと思います。スポーツでもちょっとした間合いで流れが変わることもありますね。「選択する」時間をとることが大事だととらえています。

エンドオブライフケアは、疼痛や不安を和らげる「緩和ケア」に加えて、認知症や慢性疾患など幅広い疾患を対象に、本人が自分の症状や治療方法を理解し、穏やかな最期を迎えられるようにする、ということだと思います。人は痛みやつらい思いを抱えて過ごすのではなく、家族を含めて、穏やかな最期を過ごすことを望まれると思います。主人が亡くなったあと、私には当時小学生の子どもが2人おりました。そのとき、子どもを含めて3人が再生していくために、どう生きていくか考えました。本人が自覚したときから始まるのが「エンドオブライフケア」だと思います。私自身、これからも自分らしい最期について考えていきたいと思っています。
「がん」という病名を付けられたときから、後ろを向いてネガティブに物事をとらえるのではなく、「与えられた人生の方向転換をしなければいけない時間なのだ」と考え、「どうやって生きようか」というエネルギーに変えていくことが大切だと感じました。

当事者にとっての、意思決定

利用者さんによっては、「頑固」だとか「意固地」という言葉を聞くこともあります。これも「意思決定」の一つだと思います。大切なことは、いろいろな選択肢の中から自分にとって最適なものを選ぶこと。それが人生の意思決定になっているととらえています。病気が進行して、次の段階のことを話し合うとき、「もっといい治療があるのではないか」「いろいろ治療について説明を受けたが、分からないし決められない」「自分と家族の想いが合わない」といった声を耳にします。当事者のご本人やご家族の皆さんが、自分の心のなかで考えたことを言葉にして発してほしいと思います。
利用者によって、理解の程度が異なる方がいらっしゃいます。医療者の方にも、言葉を選んで分かりやすく伝える「コミュニケーションスキル」を深めていただくことが大切だと思います。ご本人やご家族の思いが揺れたり、医療関係者の意見が合わなかったりすることもしばしばあります。少し間をおいて改めて話し合うことで、またみんなが同じ方向に向かって考えることもできようになると思います。

治療の継続、治療の変更、中止や終了のときに話し合う機会もあると思います。選択肢の先にあるのが「在宅での療養」ということもあると思います。治療を続けながら、あるいは治療をしない段階で決断をすることがあるかもしれません。話し合いのときに、分かったふりをして返事をしてしまうと、その流れで物事が決まっていってしまいます。納得できるまで何度も聞いてみることが大切です。医師が忙しかったら、周りの医療スタッフからもう一度説明を受けることもできます。何度も話し合って、納得のいく答えを導き出していただきたいと思います。
講演の様子写真
講演の様子

これからの希望

これからのことに、なかなか希望を持てないこともあると思います。私自身、つらく感じたこと、涙を流したことが何度もありました。でも、主人が亡くなったあとで、「主人はあの日あのときに人生を終わるように生を受けていた」と考えるようにもなりました。治る・治らないということではなく、前を向いて生きること、自分らしく生きること。こうしたことを考える中で、人は「希望」を持って生きられるし、家族との関係性を立て直すことできる時間を持てると思います。
ある末期がんの若い医師と家族が見つけた、生きる意味についてのやりとりからの言葉ですが、利用者の方にとって「治る希望」はもちろん大切だと考えています。それに加えて、前を見据えて生きること、そして家族との大切なときを過ごすことで「残る人生の希望」を見出してほしいと思っています。

自宅での療養生活

退院は自分らしく生きる一つの選択肢だと思います。心が揺れることは当たり前ですし、最期まで自宅で療養すること、それだけが選択肢ではありません。訪問看護や在宅療養については、いつでも説明することができます。いろいろな経験からお話しすることができます。在宅支援チームの体制づくりとして、在宅医、訪問看護師、介護支援専門員、薬剤師、介護士、福祉用具の専門相談員など、いろいろな人にお話を聞くことができ、これからのことについて相談することができます。在宅では入院と違ってナースコールはありませんが、電話ひとつで、地域の医師、訪問看護師、ケアマネジャー、介護士などが状況に応じて訪問します。関わっているチームのメンバーが、患者さんやご家族、家庭を思い浮かべながら、どうしていきたいか、一緒に話し合っていきます。

まだ訪問看護師になって間もない頃の出来事です。患者さんとそのお世話をしていた娘さんは、自然な看取りをすると決めておられました。あるとき、遠方に住んでいるご家族から、「食事をしないのに点滴もしないなんて」という話をされたことがきっかけで点滴をしました。次の日にご本人が、「死んでいく自分に、今点滴が必要なのか」おっしゃったのです。症状の緩和のために点滴を控える方がよい場合もあれば、ご本人の気持ちを尊重するために点滴をする場合もあります。この事例を通して学んだことは、ご本人やご家族の意思決定に対して、あとからいらっしゃるご家族に対しても、きちんとした説明をしていく必要があるということでした。

エンドオブライフケアで大切なこと

緩和医療の先駆者であるシシリー・ソンダース先生は、苦しみには4つの要素があり、これらが互いに影響しあって全体としての苦しみを形成するという「全人的苦痛」の考えを提唱しました。死生学を専門にするアルフォンス・デーケン先生(上智大学名誉教授)は死の側面から緩和医療を説明されています。現在では、治療の進歩によって、命を長くすることができるようになりました。心理的な死は、生きる喜びを失うことです。社会との接点を失って社会的な死を迎え、自分らしい文化的な潤いを失うときに文化的な死を迎え、そして最後に肉体的な死を迎える。肉体的な死にとどまらず、総合的な延命を図り、最後の瞬間までQOLを高めるケアを行うことこそが、エンドオブライフケアで大切なことだと思います。

私たちは、揺れる思いや不安に対して、どのようなときでも相談をお受けしながら皆さまに寄り添うことを大切にしています。エンドオブライフケアに関わる者として、これからも人との関わりについて学びを深めていきたいと考えています。「人生最期を迎えること」についての話し合いを避けるのではなく、今日の機会をきっかけに、ご家族の方と話し合っていただきたいと思います。

掲載日:2018年6月11日
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