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がんの在宅療養ガイド 研修会 沖縄 2016
【基調講演】在宅緩和ケアの現場から

仙台での取り組み
河原 正典さん(爽秋会 岡部医院 緩和医療専門医)

講演の様子講演の様子

宮城県での在宅緩和ケアについて

宮城県名取市にある、主に末期がんの患者さんの在宅療養を行う岡部医院で、地域の緩和医療に携わっています。岡部病院の開設者の岡部健は、1983年頃に宮城県立がんセンターでがん末期の患者さんの在宅での療養に関わり、自宅で穏やかに過ごす方と接したことをきっかけに、岡部医院を立ち上げました。当時は、まだ介護保険も、在宅支援の制度もありませんでした。訪問の看護職も、ヘルパーなどの介護職もなかったことから、院内にそうした人材を確保する形で始まっています。

厚生労働省のいう多職種連携による地域包括ケアは、地域の医師が診療し、訪問看護ステーション、調剤薬局、介護職の方たちなど、その地域にそれぞれのリソースがあって、連携してやろうということだと思います。岡部医院はそうしたリソースを一つの施設で対応するので、地域包括ケアでの展開とはちょっと違いますが、多職種によるチームケアの参考になると思います。近年では1年間で約300人の方の在宅療養に関わり、その8割くらいを在宅で看取っています。

チームケアに関わる職種

岡部医院の多職種チームケアでは、ケアマネジャーをトップに持ってきています。在宅療養では、最後は「医療」というより「生活を支える」ということが大きい、医療の出番はそれほどないという気がします。生活全般を見渡すための司令塔という意味で、ケアマネジャーさん、ソーシャルワーカーさんの役割が大きいでしょう。 患者さんは、医療者にはなかなか相談できないことを、ケアマネジャーに相談することが多いです。最近、亡くなった後に飼っている猫がどうなるか気になる、という方がいました。相談されたケアマネジャーが引き受け先を確保してくれました。これはあくまでも一つの例ですが、ケアマネジャーには何でも相談しやすいところがあると思います。

チームには医療、介護のさまざまな職種が関わりますが、岡部医院のチームには宗教者もいます。在宅で過ごす患者さんの家に行くと、仏教をはじめ宗教に関する本をよく見ます。2011年の震災後に、東北大学で臨床宗教師の養成講座が始まったこともあり、患者さんやご家族の希望があれば、研修をされた宗教者の方にも参加していただいています。

その時々の患者さんの思いを受け止める

事例を紹介します。独居の80代女性の患者さんは口腔内がんと腰椎圧迫骨折で入院されました。退院する前に緩和ケア病棟に申し込まれましたが、在宅で2カ月が経過したとき、「緩和ケア病棟には入りたくない、自分抜きで療養の方針を決められるのは嫌だ」とケアマネジャーに伝えました。ご本人の意志を、他県で暮らす妹さんを含めた関係者で共有しました。生活の支えになったのはヘルパーや訪問した医師・看護師に加え、普段から親しくしているご近所の方でした。身の回りの世話や朝夕の食事など、手を掛けてくださっていました。当面、在宅で過ごすことを想定して、チームケアを継続していました。

そのようにして在宅で2カ月半を過ごされた後、呼吸が苦しくなり在宅酸素を導入しました。患者さん本人が「みんなに迷惑をかけてごめんなさい」とおっしゃったことから、一人暮らしを心配する妹さんが緩和ケア病棟に入ることを勧められ、ご本人も同意されて方針を転換し、入院することになりました。もしもこのとき、患者さんが在宅を望まれたら、チームではそれに対応しようと考えていました。患者さんの気持ちも、元気なときと、具合が悪くなったときでは変わります。その時々の患者さんの思いを受け止め、チームが話し合い、患者さんに寄り添うことが大事だと思います。

がん患者と家族における在宅医療のニーズ

入院している末期がんの患者さんのうち、6、7割の方は「家に帰りたい」といいます。具合が悪くなっても最期まで家にいたいか、入院したいかは、人によって違うでしょう。さまざまな統計では、1割くらいの人が最期まで家にいたいといいます。その人たちの思いに応えるために、在宅緩和ケアをしたいと考えています。

一方で、看取りは医療が担うべきか、ということを考えなければならないと思います。自然現象としての「死」があり、それは避けることができません。医療者がやらなければいけないことは、強い痛み、呼吸が苦しいなど、医学的にきちんと対処して苦痛や不安を取り除くことです。「死」そのものは家族、そして地域社会に返すべきものではないか。身近な人を地域社会で看取ることによって、ご家族や地域の人たちにも、「死生観」を考える上で得るものがあるのではないかと思います。

在宅医療のさまざまな課題

介護休暇の制度がありますが、例えば予後半年という患者さんを、海外旅行に行きたがっていたから連れていくのは認められるのか。現実的には、なかなか難しいでしょう。法律改正によって介護休暇を分割でとることができるようになりましたが、最大で合計3カ月です。介護休暇といいながら、実際には使いづらいと思います。親世代と子ども世代の考え方にも違いがあります。個人の価値観は夫婦でも違うし、きょうだいでも違う。家族の中でなかなか意見が合わないのをどう調整していくのかで、やはり話し合いが重要になります。

また地域によって医療・介護資源には大きな差があります。在宅を一生懸命やっている先生がいる地域もあれば、普通の病気でかかる病院も遠いような地域もあります。近くにスーパーマーケットがない、過疎地域といわれるところでは医療以前の、食糧品や生活必需品の入手が簡単ではないという実態もあります。

在宅医療の多職種連携という場合、想定されているのは医療系、介護系の資源です。生活を支えるという観点で社会のコンセンサスを形成していくのは、医療者だけの議論では絶対無理だと思います。地域社会の多様な人、学校の先生でも、中小企業の社長さんでもいいですし、いろいろな人が関わって話し合っていかないと、在宅療養の充実はできないのではないかと思っています。

データから見えること

現在、日本で亡くなる方の半分以上は80歳以上です。年齢階級別人口の伸び率を見ると、2010年を100とした場合、仙台市では2040年に85歳以上の人が4倍くらいになります。宮城県気仙沼市では2倍くらい。那覇市は3倍くらいになります。東京の多摩市の場合は、5倍近くになります。

85歳以上になると何らかの手助けが必要になるということから、高齢者の基準を85歳としました。2040年から先もしばらくは高齢者が増え続けると思うので、その方たちを支えるためにかなり苦しい状況が続くでしょう。東京が一番苦しくなるけれども、地方は地方で、大変さがあると思います。このような高齢化社会を迎えることを直視して、在宅医療について考えなければならないことは、たくさんあるように思います。

掲載日:2016年3月28日
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