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在宅医療の現場から ~ご家族と患者さんを支える道しるべ~

在宅療養の現場から

私は外科の勤務医として9年ほど過ごした後、2008年に、主に末期がんの患者さんの在宅療養を行っている岡部医院に籍を移しました。勤務医時代に、岡部医院を創設した岡部健先生の講演を聞く機会があり、がん患者さんが自宅で最期の時間を過ごされる在宅療養の意義に共感したのです。

在宅療養の実践に携わるようになって感じたのは、医療者とは違った視点で患者さんやご家族の状態をとらえる必要性でした。生活面でのサポートは、医師や看護師などの医療者だけではできません。在宅療養は医療者、ヘルパーなどの介護者や薬剤師、理学療法士など多様な職種の人たちのチームケアで支えます。

医療者に対しては遠慮があるのか、患者さんは痛くても「痛い」と言わなかったり、ご家族は辛いことがあっても打ち明けることはあまりありません。でも、ヘルパーさんやケアマネジャーに、「本当は痛い」とか、「辛い」と訴えられることがあります。そうした情報を、チームのスタッフ全員が共有できる仕組みをつくり、患者さんとご家族の状況をきちんと理解することが、在宅療養では大切です。岡部医院では、ケアマネジャーや医療ソーシャルワーカーが情報共有をまとめる役割を担っています。

チームのスタッフ全員で情報を共有する
チームのスタッフ全員で情報を共有する

ご家族を支えるために

岡部医院創設者の岡部健は、「正常な出産と死は医療の関わる領域ではない」と考えていました。医療は、痛いとか苦しい何かが起こったときに関わるだけだと。

在宅医療では、どのように患者さんが最期を迎えるのかをご家族にきちんと説明しておくことが大事です。痛みを軽減する緩和ケアに対して、眠るように亡くなることができるといった期待を抱く方もいますが、がん患者さんに限らず、身体の反応として最期に呼吸が荒くなることもあります。そうしたことも含めて、ご家族に説明しています。

在宅療養の当初は、ケアの7割は患者さんを対象としますが、病状が厳しくなってからは、ご家族のケアに重点が移ります。自分たちのせいで具合が悪くなったのではないか、病院ならばもっとよいケアが受けられたのではないかなどの思いから、在宅療養がご家族のトラウマにならないようにするためです。

在宅療養を選んだ患者さんとご家族は、療養に関する悩みを抱え込んでしまうことも多いのですが、どうか関わっている医療・介護のスタッフに相談してください。たいていのことは、解決策を見いだすことができると思います。

在宅療養では社会とのつながりが保てる

在宅療養に関わるようになって、はっとしたことがあります。勤務医だった時代にも、印象的な患者さん、記憶に残る患者さんはいましたが、亡くなった後にその患者さんを思うことはあまりありませんでした。在宅療養で関わった患者さんの場合、亡くなってからも、ふと、「あの方はどうしていらっしゃるだろうか」と思うことがあるのです。もちろん、亡くなったことを忘れているわけではありません。

ご自宅への訪問診療では、特に治療をするわけでもなく、おしゃべりだけで終わることもしばしばです。そのうちに、その方がどんな子ども時代を過ごし、どのような仕事をしてきたのか、あるいは趣味は何かなどを知ります。病院ではみなさんが「患者さん」という存在になってしまいますが、在宅療養では「○○さん」という個人として向き合うことができると気がつきました。

人は家族や友人知人との関係性、社会との関わりの中で生きています。自宅にいれば、その関係性の中で過ごすことができます。これが在宅療養の一番良い点ではないかと思います。

在宅療養を考えるみなさんの参考書

最期の時間を自宅で過ごすことを考えいる方たちに、ぜひ「ご家族のための がん患者さんとご家族をつなぐ在宅療養ガイド」を手に取っていただきたいと思います。

在宅療養を希望され、決めかねているのならば、一度試してみてはいかがでしょうか。これは治療についても言えることです。やってみて、辛かったり、合わないと思ったらやめればいいのです。

末期のがん患者さんの場合、急激に病状が悪化することもあります。できるだけ長く、穏やかな時間をともに過ごすためにも、時間の余裕をもって、最期の時間の過ごし方についてご家族で話し合ってください。ご家族のコミュニケーションが成り立っていること、患者さん本人の意志を尊重する気持ちを持っていただくことが、在宅療養でよりよい時間を過ごすためのポイントです。

大事なことを決める場合、その場になってみないとわからないことはたくさんあります。元気なときとは考え方も違ってきます。ご自身、あるいは家族の最期をどのように過ごすかという、経験のない判断を迫られるのですから、迷って当たり前です。このガイドを道しるべとしてイメージし、考え、話し合っていただくことで、よりよい選択ができることを願っています。

在宅療養と告知

地域によっては、がん患者さんへの告知が進んでいないところもあります。病名はがんと知っていても、厳しい病状や転移については、患者さん本人に告げない場合もあります。

治療の手だてがないと告知されれば、希望がなくなったと感じられるかもしれません。ご家族は患者さんの落ち込む姿を見たくないという思いもあるし、希望を失った患者さんを支える自信がないというプレッシャーもあるのではないかと思います。

私は在宅療養をされる患者さんのご家族に、「患者さんに病状を聞かれたら、嘘はつけません」とお話しします。なぜならば、病状が悪くなったときに、患者さんとの信頼関係がなければ、訪問診療を拒否され、医療不信を招くことになるからです。

がんと他の疾患の終末期の違いは、がん患者さんの多くが疼痛にさいなまれることです。この痛みと、ご家族も含めた精神的な苦痛を軽減するのが「緩和ケア」です。

私は、患者さんとご家族は緩和ケアを受ける権利があると考えています。「権利は義務を伴う」といわれるように、緩和ケアを受けるときには義務もあると思います。それは、自分の病気、死、家族の死と向き合うことです。人生観、死生観を持つことで、在宅療養はより意義のあるものになるのではないかと思います。

人の死について考える

自宅での看取りによって、人が亡くなる過程をご家族それぞれが肌身で経験することになります。それは自分の死、人の死について改めて考える契機ともなるでしょう。

在宅療養に関わって7年余になりますが、最近では、在宅療養は若い方たちが人の死に接することのできる機会でもあると思うようになりました。人が亡くなるというのはどういうことか、患者さんのお孫さんのような若い方たちにとっても、貴重な経験となるでしょう。

日本は超高齢化社会を迎えようとしています。人はみないずれ死ぬという現実と向き合わなければならない時代だと思います。

医師として多くの死に接してきたために、一般に人の死はどう受け止められているのか、よくわからなくなっていると感じます。在宅療養についてのフォーラムや、このウェブサイトを通じたアンケートなどは、みなさんのご意見を聞くことのできる、貴重な機会となります。多くの方のご意見をいただければと願っています。

また、患者さんやご家族から要望を出していただくことは、在宅療養に関わるチームの意識、仕組みの底上げにもつながるとも期待します。


掲載日:2015年10月22日
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