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がん医療フォーラム 仙台 2015
【フォーラム】がん患者さんとご家族の療養を地域で支える
臨床宗教師の取り組み -理念と現状-

高橋 原さん(東北大学大学院文学研究科 実践宗教学寄付講座 准教授)
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高橋 原さん
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臨床宗教師とは何か

東北大学では被災地支援の一環として、2012年から臨床宗教師の養成が始まりました。3年半ほど前には「臨床宗教師」という言葉はありませんでした。岡部健先生は「死に向かい合う現場に医療者とチームを組んで入れる、日本の宗教性にふさわしい」チャプレンのような宗教者の必要性を指摘されていました。

チャプレンは簡単に言うと、学校や病院などで奉仕する聖職者です。私が視察したアメリカの病院では、キリスト教の方を中心に、仏教、イスラム教など各宗教に対応するチャプレンがいました。こういう専門家が活動する場はどうあるべきか、日本でどのように根付かせるか、が問題になります。「亡くなったご親族がお迎えに来た」という患者さんに、宗教者だったら何か違う対応ができるのではないか。医療スタッフとは違う角度から、ケアのチームに加われるのが宗教者ではないかと考えています。

東日本大震災の経験から広がる

震災の衝撃、被災地で地元のお坊さんが頑張っている姿を、全国の宗教者が目の当たりにして、「自分は宗教者として何ができるのか」を考えられたのだと思います。東北大学で研修を受けた方たちが、臨床宗教師として各地で活動されています。

臨床宗教師の役割は心のケアをすることですが、カウンセラーのように、心のケアをしますと言うわけではありません。栗原市の僧侶で臨床宗教師の金田諦應さんは「もっとも大切なのが『傾聴』」だと語っています。宗教者として接することが心のケアになるのではないかと思います。一人、一人がそれぞれに違う人生を送っている。それを受け止める役割だと思います。臨床宗教師がいろいろな場で活動するために大事なのは、「公共性」ということです。つまり、布教しない、価値観を押し付けないということです。

講演の様子の写真
講演の様子

臨床宗教師研修プログラムの内容

全国の宗教者が研修に来て、どんなことを学ぶのかをご紹介します。まず「傾聴とスピリチュアルケアの能力向上」。宗教者は、宗教の教えを伝える方法は知っていますが、臨床宗教師は相手の気持ちを聞き取ることを大事にします。

病院などの公共の場所で信仰の違う人、宗教に興味はないという人にも語りかけていくための「宗教間対話」や「宗教協力」についても学びます。また宗教者以外の諸機関と連携する方法も学びます。幅広い「宗教的ケア」の提供方法を学ぶのは難しいことですが、相手の方に望まれたら「聖書を読みましょうか」とか、「仏教の話をしましょうか」という話をします。そういう手続きも勉強しています。

養成講座には女性の参加者もいます。聖職者のほか、ふだん檀家さんの話を聞いている、和尚さんの奥さんもいます。グループワークやロールプレイで、困っている人にどう接するかについて学びます。学習の一環として被災地を追悼巡礼したり、仮設住宅で傾聴実習をしたりします。幅広い宗派の人たちが研修を受けています。

臨床宗教師の役割

臨床宗教師は、どんな役割があるでしょうか。一つは傾聴、セルフケアのサポートです。宗教者だから「救う」ということではなく、セルフケアのお手伝いをするという意識が強いと思います。最期のとき、生きていてよかったと思えるのが、私はいいのかなと思っています。そのときに、気がかりだったこと、肩の荷を下ろしてから逝きたいと多くの方は思うでしょう。

例えば仲の悪かった兄弟などと、宗教者を間にはさんで仲直りできればいいと思います。ご家族には言いにくいこともあるかもしれません。ゆっくり話を聞ける宗教者がいると、こういったお手伝いに役立つだろうと思います。宗教者は医師と同じで、法律で守秘義務が課せられている、秘密を守ってくれる人でもあります。

このほか臨床宗教師は、宗教的ケアの求めがあればお祈り、儀礼、経典などを紹介します。またグリーフケアとして、ご遺族のケアに関わることができます。お葬式やお墓、死別後の儀礼についての相談にのることもできます。

社会資源としての宗教者を利用する

介護、ケアの現場にマンパワーが足りないというときには、人の役に立ちたいと思っている宗教者をうまく利用してください。宗教者でなくても寄り添えることは確かにいろいろあります。一方で、宗教者にしかできないこともあります。それが何かはすごく難しいことなので、研修に来た宗教者にも、考え続けてくださいと伝えています。それでも、「自分は宗教者だからこそ、困っている人たちを助けたい」という人たちがたくさんがいます。

掲載日:2016年1月15日
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