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がん医療フォーラム 2018 がんを知り、がんと共に生きる社会へ
【第1部】基調講演「地域とつなぐ、社会とつながる」
がん患者がネット情報におぼれないために 当事者の立場から

池辺 英俊さん(読売新聞東京本社 医療ネットワーク事務局長)
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池辺 英俊さん
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患者になって分かった情報の大切さ

私は、血液のがんである、「急性骨髄性白血病」という病気を、2013年と2015年の2回経験しました。このときの闘病体験を通じて、がん患者が自分の病気について、自分の病気に関する情報を集めることがいかに大変か、そしていかに重要かということを学びましたので、今回はその話をさせていただきたいと思います。

まず問題提起として、「なぜ、がん患者は、がんに関する情報・知識を集める必要があるのか?」というところからお話ししたいと思います。先ほど「お任せ医療」という言葉がありましたけれども、二十数年前まで、患者は医師の治療方針に一方的に従うのがほぼ当たり前でした。1990年代後半ごろから「インフォームド・コンセント(説明に基づく同意)」が浸透していきます。そして、医師は患者について知り得た情報を伝え、患者の同意を求めるという時代になりました。「同意を求める」とありますけれども、これは1997年の医療法改正によって、医師が患者に治療法について説明し、同意を得るインフォームド・コンセントが医療法の中で「努力義務」として明記されました。

病気について理解し、納得した上で治療を受けることの大切さ

どういうことかと言いますと、患者側も医師の説明内容を理解した上で、どのような治療を受けるのかを選択し、医師に伝えなければならない。言い換えれば、「お任せ医療」ではなく、患者側も一定の責任を負わなければいけないという時代に入ってきたわけです。もちろん、患者よりも医師のほうが、知識・経験、いずれの面でも圧倒的に多いというのが現状です。

医師にすべて、全面的に委ねるというのも選択肢の一つだと思います。私はそれを否定するものではありません。しかし、がんは命に関わる病気です。命の主人公である自分自身が、自分の病状、治療方針、検査結果について正しく知り、その治療の必要性について十分納得した上で治療を受けるということが重要なのではないでしょうか。後から後悔しないためにも、その意味でも患者の情報収集というのは不可欠であると思います。

しかし実際には、患者が正確で最新の情報を自ら集めるというのは、決して簡単なことではないということを、私は自らの闘病を通じて痛切に感じました。その体験談・失敗談を、今からご紹介したいと思います。

突然の白血病発症と不安

まずは、白血病になる前、私が元気だった頃の写真をご覧いただきたいと思います。私は約20年間、政治部で記者をやっていました。その私がこのようになってしまったのは、2013年6月のことでした。真夜中に突然、腰の辺りに激痛を覚え、それが背中をゆっくり一周しまして、あまりの痛みで妻を起こし、病院に救急車で運ばれました。医師から「急性骨髄性白血病」と告げられたときは、悪い夢でも見ているかの感じでした。白血病について、何の知識も当時はなかったので、私は医師に「それは、私が死ぬということでしょうか」と、震える声で尋ねました。

白血病とは何か、簡単にご説明したいと思います。造血幹細胞というあらゆる血液細胞の源になる細胞が骨髄にあります。これが骨髄の中で分化しまして、赤血球や白血球など、特定の機能を持った血液細胞に分化していきますが、その分化する過程でがん化してしまい、骨髄や血液の中でがん細胞が急増してしまう、というのが白血病です。私の場合、骨髄の中の細胞の90%以上ががん細胞に占拠されていました。

1回目の白血病では、抗がん剤による化学療法を約4か月間断続的に行い、幸い順調にがん細胞を取り除くことができました。しかし、退院してから1年後、順調に社会生活を営んでいたのですが、突然に白血病が再発してしまいます。医師からは「再発した以上、今度は化学療法では治せません。移植治療が必要です」と告げられました。移植治療は何か簡単に説明します。造血幹細胞を工場に例えますと、血液をつくり出す機械です。これが、もう不良品ばかりをつくってしまうということで、この機械を壊して(抗がん剤でゼロにして)、他の人の新しい造血幹細胞を骨髄の中に移植して新しい血液をつくりましょう、という治療です。

再発と死の恐怖に直面する

再発がとてもショックだったのですが、それが強く残る中で、移植治療の説明と同意、つまりインフォームド・コンセントが行われました。その際、生存率のグラフが私に見せられまして、死の恐怖が一気に襲い掛かってきました。

生存率のグラフは、横軸が移植日を起点にした日数です。平仮名の「し」の字を平たくしたような曲線が、移植患者の生存率です。移植の日から100日以内に死ぬ、つまり、移植関連死の確率が20~30%と言われました。それをクリアしたとしても、その後3年以内にがんが再発したり、合併症などで死ぬ確率も20~30%ということで、長期生存は40%台だと言われました。つまり、半数以上の患者が、移植から3年以内に亡くなるというお話でした。

生存率の厳しい現実を突き付けられまして、私は頭の中が真っ白になってしまいまして、医師の説明が、右から入って左から抜けていくような感じになりました。頭が混乱しまして、質問を仕事とする新聞記者のくせに、質問すら一つもできないという状態になりました。医師が、「臍帯血(さいたいけつ)移植が一番いいですよ。これでよろしいですか。よろしければ、同意書のサインをしてください」と言われたのですが、「今はまだ判断ができません。少し時間をください」と言うのが精いっぱいでした。

情報の波にもまれる

こういった状態だったのですが、今思うと、ここで私がやるべきは、正確な情報を集めて、自分にとって最適な治療法は何かというのを考えた上で、臍帯血でいいかどうかというのを医師に返答する。移植治療には、骨髄移植、臍帯血移植、末梢(まっしょう)血幹細胞移植というのがありまして、それぞれメリット・デメリットがあります。臍帯血移植の場合では、ただちに移植治療に移れますが、その分骨髄移植と比べると生着に至る期間が長くて確率も低いなど、いろいろメリット・デメリットがあります。

そういった情報を集めて判断すればよかったのですが、もう先ほどの生存率のことで私は頭がいっぱいになってきまして。ここに書いてあるとおり、「急性骨髄性白血病」「生存率」の、2つのワードだけで検索してしまい、出てきた情報を片っ端にクリックし、移植治療法の知識もないまま2時間以上も検索し。英語の論文、出典不明のデータ、うわさ程度の情報に翻弄(ほんろう)され、玉石混交のネットの大量情報の波にもまれてしまいました。心身ともに疲労し、結果的に不安が一層拡大してしまうという結果になりました。

生存率のデータなど統計値に過ぎないのだと、自分の生存率は0か100のいずれかでしかないと割り切るには、まだまだかなりの日数が必要でした。

情報を集めるときのポイント

私の反省点としましては、1つ目は、情報収集の手順・目的をしっかり定めるべきだったと。第一に、自分の病気について基礎知識・情報を集める。その上で第2段階、その治療法に関する基礎知識・情報を集める。そして第3段階として、自分に適した治療は何かというのを考える。この手順・目的をしっかりすべきだったと思います。そして第2点としましては、信頼のおけるサイトを選んで検索すべきでした。やみくもに検索するのではなく、特定のサイトに絞って情報を集めるべきだったというのが、私の反省点です。

では、どのサイトから情報収集すればいいのかということで、先ほど渡邊さんもご講演で説明しておられましたけれども、医療関係者が口をそろえて推奨するのは、「国立がん研究センター がん情報サービス外部リンク」のサイトです。逆に言うと、皆さんが推奨するので、ここでは割愛したいと思います。こうした情報をもとに、さらに掘り下げるためにどうしたらいいかということで、2つの方法を、私なりによいと思うのを紹介したいと思います。

体験者の声を伝えるサイトが支えに

一つは、患者会や学会などのルートにたどり着くことが大事だということ。自分のがんの病名プラス「患者会」、もしくは病名プラス「協会」、または「学会」などと打ち込んだ上で検索すると、その病気の知識普及・啓発に取り組んでいる患者会や学会など、公的組織のサイトを探しやすいと思います。先ほどから話が出ているとおり、患者会のサイトを見るメリットはとても大きいと思います。自分と同じ病気で苦しみ、それを乗り越えたという人がいることを知るだけでも、やはり「自分だけが苦しいわけではない。1人じゃない」と実感することができ、メンタル面でも大きな支えになると思います。

こうした、がん患者が自分の闘病体験を発信するサイトというのは、この後登場されます岸田さんが代表理事を務める「がんノート外部リンク」のほか、がんと認知症の体験談を動画・音声で届けている「ディペックス・ジャパン 健康と病いの語り外部リンク」、さらに、胃がんで胃を全摘した方々の会「アルファ・クラブ外部リンク」など、選ぶのが大変なほどいっぱいあります。

大手メディアの医療専門サイトを活用する

もう一つのルートとして、大手メディアが医療専門のサイトを持っているところがいくつかあります。このサイトを活用し、検索機能を使い、病気に関する記事をピックアップして情報収集するという手もあると思います。ここに書いてあるとおり、朝日新聞「アピタル外部リンク」、毎日新聞「医療プレミア外部リンク」、NHK「健康チャンネル外部リンク」、日経「グッデイ」、読売新聞「ヨミドクター外部リンク」とあります。この中から、2つほどピックアップして紹介したいと思います。

私の個人的な感想ですが、基礎から病気や治療法を学びたいという方は、NHKの「健康チャンネル」というのがとても良いと思います。NHKは、皆さんご存じのとおり、健康・医療番組をいくつか持っています。『きょうの健康』という雑誌を毎月発行して、これらの多くのコンテンツがこのサイトの中に収められています。記者でなく、医師が一般的に分かりやすく書いていること。テレビですので、文字主体の新聞と違って、ビジュアル重視でカラーの図解が次々に出てくるので、とても分かりやすいと思います。

手前みそで大変恐縮ですが、読売新聞の医療サイト「ヨミドクター」です。毎月アクセスが1,000万から1,500万ページビューという、医療サイトとしては大変人気のあるサイトです。特徴しては、医療・健康・介護に関するニュースがひとまとめに読めるということと、コラム、特に著名人の健康インタビューや闘病記、介護体験記などが充実していて、大変よく読まれています。

最近、がんを経験した方に、がんの種類別に集まっていただきまして患者座談会の新連載を「がんを語る」というタイトルで始めました。大腸がん、胃がん、乳がんを掲載する予定です。このがん医療フォーラム外部リンクの内容も掲載しますので、ぜひご覧いただければと存じます。

医師とのコミュニケーション

情報を得たら次のステップとして、医師とどうコミュニケーションを取ればいいのかという問題に入りたいと思います。専門家である医師の経験や知識は、患者に比べて圧倒的に多く、患者は医師を前に萎縮して遠慮してしまい、ほとんど何も言えないというケースも、まだまだ多いのではないでしょうか。知識・経験の差だけではなくて、患者にとっては、自分の主治医というのは唯一無二の存在ですが、医師にとって患者というのは「ワン・オブ・ゼム」、何十人もいる患者の中の1人という現実もあります。

医師と情報のキャッチボールのできる関係に

こうした中で、患者が医師としっかりコミュニケーションを取るには、私は「質問力を磨くこと」が大事だと思うわけです。主治医または担当医を情報源とするのが基本だと思います。例えば、サイトなどで情報を得て、食事・運動・サプリメントなど、これは試したいと思ったら、やはり主治医に必ず相談して、了解を得てから実行に移すということが大事なのではないでしょうか。

私の取材方法ですが、医師の立場を尊重し、1回につき何問も聞かないで、必ず3問程度に絞って、最初は笑顔で「質問してもよろしいでしょうか」と聞いて、最後は必ずお礼を言うということをモットーにしていました。記者時代の名残かもしれませんが、メモ帳とペンは、もう必携です。分からない専門用語や単語は必ず聞く。そして、質問リスト3問は、医師と会う前に箇条書きにして事前に用意しておく。

優先順位を付けて、優先順位の1位、2位から聞いていくということを徹底していました。こうしたことにより、不安や疑問点を少しでも解消するためにも、患者は臆したり遠慮したりすることなく、医師としっかり情報のキャッチボールができる関係に自ら持っていくことが大事だと思います。

情報共有が信頼関係の構築、質の高い医療につながる

患者と医師の関係は、「お任せ」でも「対立」でもないと思います。情報が欠如すると、患者側は特に不信感・不満を募らせる結果になります。逆に、情報共有がしっかりできれば、医師と患者の信頼関係の構築、ひいては質の高い医療につながるのではないかと考えます。患者側も一律に治療や病気について理解・選択ができるわけではありませんので、医療関係者の方々には、患者が基本から理解するためのサポートをぜひお願いしたいと思います。

私の闘病について、生存率の情報で混乱してしまって行き詰まったというお話までしたと思います。ここで、私の場合は本当に特殊なケースですが、救世主が現れまして。私の高校時代の同級生が、地元の大学病院で血液内科をやっていることを思い出しまして、メールでSOSを出しました。そうしたら、すぐにその医師から電話がかかってきまして、何て言ったかといいますと、「メールで俺の名前に様を付けるな。呼び捨てでよか」と、いきなり言ってきまして。私はびっくりしまして、「おまえ、どこの世界に医師を呼び捨てで呼ぶ患者がおるとか」と言いながら、久々に思わず笑ってしまいました。医師と患者ではない友人同士の会話が、弱り切った私には、本当に涙が出るほどありがたかった。

その後、何度もメール交換しました。私はその友人に福岡に帰った際に博多ラーメンをごちそうしただけで、本当に友情というのはお金に代えられないありがたいものだと、恵まれた患者だったと思っています。

第二の誕生日から、現在へ

移植本番の2015年4月。「第二の誕生日」とよく言われますが、命の源となる「血液の種」を頂戴しました。注射器を4本分、こんな少ない量の臍帯血で正常な造血機能が回復するというのは、本当に今でも不思議に思います。おかげさまで、今、私は、病気になる前には達成できなかった、ゴルフの100切りも達成できるようなほど元気に暮らしています。

この講演の最後に、私は移植治療で136日間、約4か月入院生活していたのですが、退院するときの写真をご覧いただきたいと思います。「何だ、こいつ、看護師と仲の良さを自慢したいのか」と思われるかもしれませんけれども、全くそのとおりです。これは、総理大臣とのツーショットの写真よりも、私にとっては何倍も大切な宝物の写真です。

がんになって学んだこと、学ばなければならないこと

まとめとして、「がんになって良かったか」と聞かれれば、一度もそんなことは思ったことはありません。でも、がんになって学んだこと、学ばなければならないことは、数多くあると思っています。命や健康の大切さ、そして自分の命は、たくさんの人々のサポートの上に成り立っていること。こちらにいる医療スタッフ、献血してくれた方々、臍帯血を提供してくれたドナー、家族、こうした人々への感謝の念を常に忘れてはいけないと、この写真を見るたびに胸に刻んでいる次第です。

最後に、先ほどから何度も出ているとおり、国民に2人の1人が、がんになる時代です。がん保険に、まだ入っていないという方は、ぜひ加入をお勧めします。私が入院中も、これに入っていなくて、本当にがんと闘いながら、「お金どうする、お金どうする」と、本当に苦労されている方を何人か見てきました。そういうのは本当につらいと思いますので、ぜひ保険を考えていただきたいと思います。

そして、今日は説明する時間はないのですが、献血、臍帯血バンク、骨髄バンクへの協力をいただいている方は、われわれ血液のがんを患った者にとっては、もう命の恩人です。この場を借りてお礼を申し上げるとともに、広くご理解とご協力をお願いいたします。ご清聴、誠にありがとうございました。

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掲載日:2019年5月20日
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