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がん医療フォーラム 仙台 2015
【基調講演】地域で療養するがん患者さんのご家族を支える情報とは
腫瘍内科医の立場から 薬物療法について

髙橋 信さん(東北大学加齢医学研究所 臨床腫瘍学分野/東北大学病院 腫瘍内科 助教)
髙橋 信さんの写真
髙橋 信さん
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がん薬物療法の著しい進歩

大腸がんを例にすると、この10年ほどで効果のある抗がん剤が5つ加わり、薬の組み合わせも含めて抗がん剤治療の選択肢が増えました。その結果、治療成績も格段によくなりました。進行再発大腸がん(大腸周囲や、離れた臓器への転移が出現している段階)の平均の生存期間は、1980年代の1年以内から、2014年には約30カ月になっています。有望な新薬が今後も開発されて、治療成績はさらに向上すると期待されています。

がん患者さんに知ってほしい「治療」の考え方

がんの薬物療法は進歩してきています。一方で、抗がん剤には副作用が伴います。「何かできる治療があるなら受けたい」という患者さんの気持ちは、非常によくわかります。しかしながら、「何か治療をする」ということよりも「何のために治療をするのか」ということを考えることが重要なのです。

私は「治療」とは、「できる治療」と「やって意味のある治療」の2種類があると考えています。「できる治療」とは、効果はあまり期待できないけれど、患者さんが希望しているからやってあげた方がいいかなという治療です。それに対して「やって意味のある治療」とは、患者さんの持っている問題、困っていること、例えば痛みや不快感を少しでも改善することを目的として行う治療です。

この2つの治療の大きな違いは何かと言えば、治療自体が「何のためにやるか?」という「目的」を持っているかどうか、ということです。

「治療」をどう考えるか

一般的に「治療」はよいことだと考えがちだと思いますが、実はそうではありません。「治療」は基本的に「侵襲行為」、つまり体に危害を与える行為です。医師が治療という侵襲行為を認められているのは、メリットがデメリットを上回ると考えられるからです。ただし、何がメリットとなるかは、人それぞれ、病状や患者さんの価値観によって違うことを知っていただきたいと思います。

例えば腸閉塞(病気や治療の影響で、腸の内容物の流れが悪くなること)の治療は一般的にバイパスや人工肛門をつくる手術がありますが、手術ができない状態の方もいます。そうした場合は、鼻から長い管(イレウスチューブ)を入れて減圧する治療法が行われ、絶食となります。腹痛などのつらい症状は緩和されますが、イレウスチューブによる鼻の痛み、喉の違和感などから、「やめてほしい」という方もいます。また一方で、吐いてもいいから食べたい、という患者さんもいらっしゃるのです。

どのような治療でも、その治療の「意味」、つまり患者さんにどのようなメリットをもたらすのかを考えてください。治療は、あくまでも「手段」であって、それ自体が「目的」ではありません。治療は「目的」を達成するために行う「手段」と考えていただきたいと思います。

講演の様子の写真
講演の様子

「治療の目的」と「治療の選択」

大腸がんを例にしますと、転移がない早期のがんの場合は、治癒を目的とした手術をお勧めします。放射線治療は、侵襲が比較的少ないですが、がんをすべて除去することはできません。ほかの臓器への転移がある進行再発大腸がんでは、全身にあるがんに対する治療として、延命を目的として全身の治療が可能な抗がん剤治療をお勧めします。これはあくまでもメリットとデメリットを比較したときに、その病状において最も「意味のある」、「患者さんの役に立つ」治療を選択するということです。

緩和ケアはがんと診断された時からいつでも受けることが勧められます。抗がん剤が効かなくなった段階では、抗がん剤は副作用が出るだけで、むしろ余命を縮めることになりかねません。緩和治療は症状を和らげ、体調を維持することが、かえって延命につながることが期待できます。

より良く生ききるために

何のために、「医療」はあるのでしょうか。がんが治ったとしても、ひとが死なないわけではありません。がんだけが死に至る病ではなくて、がんは、死に至る病の一つにすぎません。医療の目的は「患者さんがよりよく生ききれる」ためのお手伝いだと考えています。

がんと診断されると、皆さん落ち込みます。それは当然のことと思います。しかしながら、誰にでもいつか訪れる「死」を心配するより、生きている今日、明日をよりハッピーにすることを考えてほしい。そのために、どういう治療を受けるべきかということを考えていただきたいと思います。

精一杯、自分らしく生ききることを目標にできる「がん医療」を目指したいと思っています。人は何で死ぬか、いつ死ぬかを選べるわけではありません。だからこそ、いい時間を過ごすことを考えていただきたいと思います。ぜひ医療スタッフと治療の目的、最適な治療について相談してください。医療関係者には患者さんとご家族とよく相談して、何を目的として、どこをゴールとするのか、そのために最適な治療を提案してほしいと思います。

掲載日:2015年12月28日
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